igawa's Blog

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トマ・ピケティ『21世紀の資本』に関するミニ知識


最近、新聞・雑誌・ネット上で、フランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』という本がよく取り上げられています。世界的にかなりのベストセラーのようです。書店で見かけましたが、相当分厚いし経済の本ですので、読んでみたいとは思いません。でも、ちょっとだけ気になります。 

21世紀の資本

21世紀の資本

先日のエントリーで、クーリエ・ジャポン2015年2月号の特集『世界の人は こんな本を読んでいる』を紹介しましたが、実はこの特集の中に、「なぜ『21世紀の資本』は世界的ベストセラーになったのか」という記事があったことに気づきました。

読むつもりはないけど最小限は知っておきたいという私のような人のために、役に立ちそうなことをメモしておきます。

 

ピケティの調査・分析結果

本書は、先進20か国の税務統計を18世紀から現代まで収集・編集し、それを「富の配分」という観点から分析し、その数百万点に及ぶデータの検証結果から、1980年代以降、飛躍的に格差が拡大していることを明らかしたものです。

例えば、1910年代のアメリカでは4%の最富裕層が総所得の35%を得ていましたが、この富は第二次世界大戦後に一時的に分配されています。ところが、21世紀に入って再び100年前と同様の状態になっており、この傾向はヨーロッパや日本でも変わらないようです。

勤勉と努力が報われるという価値観は既に存在せず、格差という意味では19世紀に逆戻りした、つまり、金持ちになる最有力の方法は遺産を相続し運用することになりました。

なぜなら、労働から得る収入が、資本から得る収益に勝ることはあり得ない(努力は相続に勝てない)ことが、ピケティにより証明されてしまったからです。

その考察を式にしたのが「r>g」で、資本収益率(r)は経済成長率(g)を上回っており、これが格差を不可避的に拡大する、ということを意味しています。

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ピケティが主張する解決策

今後はますます、人々の生活が相続した財産の収益性(r)に左右されるようになり、経済成長率(g)が低くなるほど強まっていく、という問題に対するピケティの解決策は次の3点にまとめることができます。

  1. 年間40万ユーロ(約5800万円)を超える所得に対して、80%程度の累進課税をかける
  2. 資産についても、巨大なものには世界規模で課税する。(100万ユーロを超える資産には年率1%、500万ユーロを超える場合は年率5%程度)
  3. ヨーロッパにおいては、現在の財政緊縮政策を中止し、高等教育により多く投資することで、経済成長を実現させる。

つまり解決策は、世界規模で大金持ちから税金を取ることで、再分配を実現する、というものです。

 

訳者山形浩生氏によるコメント

ピケティの議論を私たち日本人がどう読むべきか、翻訳者である山形浩生氏へのインタビュー記事もありましたので、重要だと思われる部分を引用しておきます。

日本でも、格差は政策上の争点にあがってきています。しかし、「成長よりも格差是正だ」として、ピケティの議論をアベノミクス批判に結びつけるのは無理があると思います。この本の重要な押さえどころは「r>gにおいて、gつまり経済成長率が小さくなればなるほど、格差は開く」ということです。だから成長と格差を両立させるべきなのです。

 

おわりに

この本が世界的ベストセラーになったのは、膨大なデータから導きだされた結果に説得力があるからというより、メッセージがシンプルであること、しかもそれをあまりにもシンプルな「r>g」という数式でわざわざ表現したからではないかと思っています。

 

ではまた…