igawa's Blog

おもに読書と本に関するブログですが、Mac/iPhone、数学、音楽の話題など例外の方が多いかもしれません。

福岡伸一『福岡ハカセの本棚』を読んで気になった20冊の本

ベストセラー『生物の無生物のあいだ』や『動的平衡』で有名な分子生物学福岡伸一のエッセイ『福岡ハカセの本棚』を読みました。内向的だったという子供時代から生物博士に至るまでの読書遍歴を綴ったものです。 

少年時代に影響を受けた図鑑に始まって、自然や冒険もの、生き物・進化・遺伝子関係のほか、音楽・美術・数学・建築など広範囲にわたります。単に時系列に書かれているのではなく、福岡ハカセの「世界に対するものの見方」が微妙に変化していくという軸もあり、非常に興味深いものでした。

巻末には、2011年5月から2012年3月までジュンク堂池袋本店で開催された推薦書フェア「動的書房」のために福岡ハカセが厳選した約400点のリストが掲載されています。というか、このフェアをもとに本書が生まれたのが真相のようです。

それでは、本書の本文に紹介されている約110冊の中から、気になる20冊を紹介します。

 

ジュール・ベルヌ地底旅行 

地底旅行 (岩波文庫)

地底旅行 (岩波文庫)

実は小学校時代、ほとんど本を読みませんでした。今更ながら、こんな冒険ものを読んでみたい。『十五少年漂流記』も同じ作者。

地下に広がる広大な海。巨大な古生物たちの熾烈な戦い。洋上をかすめ飛ぶ火の玉。生き物の骨で埋め尽くされた平原。古代人類のひからびた意外。体長4mを超える巨人…。徒歩で、あるいは筏に乗って、3人は未知の世界をどこまでも進みます。

  

ヒュー・ロフティング『ドリトル先生航海記』 

ドリトル先生航海記 (岩波少年文庫 (022))

ドリトル先生航海記 (岩波少年文庫 (022))

 先日入手した『どくとるマンボウ航海記』とタイトルが似ているので。

私が最初に読んだのは2巻目の『ドリトル先生航海記』でした。これはとても幸運だったと思います。なぜなら、1巻目の「アフリカ行き」が普通の三人称で書かれているのに対して、2巻目以降はトミー・スタピンズという9歳の少年が物語の語り手となるからです。

 

レイチェル・カーソンセンス・オブ・ワンダー 

センス・オブ・ワンダー

センス・オブ・ワンダー

センス・オブ・ワンダー」とは「神秘さや不思議さに目をみはる感性」のこと。大人になるにつれ、自然の美しさに触れる喜びのようなものを失ってしまっています。

結局のところ私もまた、生命の神秘の前にひざまずき、そのありように目を見はってきたのです。『センス・オブ・ワンダー』は私にそのことを思い出させ、自分の原点に引き戻してくれます。と同時に、読む人それぞれに、その人自身のセンス・オブ・ワンダーを思い起こさせてくれる本なのです。

 

青柳いずみこ『グレン・グールド 未来のピアニスト』 

バッハの「ゴールドベルク変奏曲」を二度録音したグールドの演奏を、より深く知るために参考になりそうです。

著者自身がピアニストであることから、演奏家ならではのまなざしで、常人には理解しにくいグールドの身体性や心理を見つめ直しています。同時に、グールドがコンサート活動から引退する前のライブ録音をもとに一般に知られざるグールド増を描き出し、読者を十分に楽しませるのです。

  

ダグラス・R・ホフスタッター『ゲーデルエッシャー・バッハ』 

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

この本の存在はずいぶん前から知っていますが、実物を本屋で見て、その大きさと厚さに尻込みしていました。 

ゲーデルエッシャー、バッハの3人には共通するものがある、それは「自己言及」である、というのが著者の主張です。自分という構造の中にいくつもの似たような構造が入れ子になっているある種のフラクタル構造を、数学、アート、音楽、人工知能認知科学分子生物学などと絡めて論じているのですが、そのいちいちをここで説明することは到底できません。

 

朽木ゆり子『盗まれたフェルメール 

盗まれたフェルメール (新潮選書)

盗まれたフェルメール (新潮選書)

画家フェルメールのことはほとんど知りませんが、5冊も紹介されていたフェルメール本の中で本書が一番面白そうです。 

世界各地で起きたフェルメールの盗難事件を追うノンフィクションです。(中略)そのいきさつを中心に、著者は、美術犯罪の裏に潜む動機や犯人像へも視点を広げていきます。そこには、政治的な目的とも絡む意外な要因も見え隠れするのです。

  

隈研吾『負ける建築』 

負ける建築

負ける建築

福岡ハカセは、「神の視点」を思わせる壮大な都市計画に基づくハコモノ建築ではなく、まず一つの細胞が生まれ、それが少しずつつながりながら増殖していく相互作用によって体全体が形成されるような、生物学的な建築に将来性を感じています。 

それに対して、「負ける建築」とは、周囲に対してより受動的な、弱く柔らかい建築である、と。具体的には、その土地の環境を可能なかぎり受け入れ、合わせ、それと溶け合う建築のことです。

 

森山徹『ダンゴムシに心はあるのか』 

ダンゴムシに心はあるのか (PHPサイエンス・ワールド新書)

ダンゴムシに心はあるのか (PHPサイエンス・ワールド新書)

これはもう、タイトルだけで買いです。 

下等な生き物に心はあるのか。いや、そもそも心とは何か。これは相も変わらず、人間が抱える大きな疑問です。森山さんは、ダーウィンと同じく、「心はある」と結論しています。

 

リチャード・ドーキンス利己的な遺伝子 

利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

この本は、有名な世界的ベストセラーですので、先日紹介した同著者の『進化とは何か』とあわせてぜひ読んでおきたい。 

遺伝子とはいかに効率よく自分を複製するかだけを目指す利己的な存在で、そのための戦略として個体に乗っているにすぎない。つまり、「生物とは遺伝子の乗り物にすぎない」と断定したのです。

 

長谷川英祐『働かないアリに意義がある』 

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリが存在する理由は、初めから2割ぐらいの遊軍をつくっておいたほうが、いざというときに備えられるからだそうですが、その「いざ」はいつやってくるか分からないのに進化の過程でこの仕組みはなぜ淘汰されなかったのか…がこの本の読みどころ。

しかし、現実には、体の仕組みであれ、行動様式であれ、一見無駄に見えるものが幾重にも維持されていることが多い。実はここに、生命の本当の豊かさがあると思うのです。その意味で、この本が示す観察と分析はとても刺激的です。

 

オポルト・インフェルト『ガロアの生涯ー神々の愛でし人』 

ガロアの生涯―神々の愛でし人

ガロアの生涯―神々の愛でし人

生物学者からみると数学者はかなり異なる人種に見えるようで、数学者の物語はたまらなく面白いと福岡ハカセは言っています。 数学関係では4冊の本が紹介されていましたが、他の三冊『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『完全なる証明』は既読でした。

1832年5月30日、死は決闘によってもたらされました。恋愛事件のもつれから「2名の愛国者」の挑戦を受けたガロアは、短銃で撃たれて絶命します。20歳。本書の著者インフェルトは、短くも激しい天才の生涯を臨場感あふれる文章で生き生きと描き出しています。

 

アレクサンドル・デュマモンテ・クリスト伯 

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)

日本では『巌窟王』というタイトルで親しまれていた古典中の古典らしいのですが、読んだことありません。「陰謀によって幽閉された島の牢獄から逃げ出し、財宝を手に入れてパリの社交界に入り込んだ男の壮絶な復讐劇」というあらすじを知って、ぜひ読んでみたくなりました。

なによりすばらしいのは、これだけの長編にもかかわらず、ストーリーのそこここに張り巡らされた伏線が、結末に向けて一本残らずきれいに回収されていくこと。輻輳するエピソード、大勢の登場人物と言ったパズルのピースは、最後に一枚の絵の中に収まります。

 

マイケル・クライトンアンドロメダ病原体』 

SFはあまり得意ではありませんが、作者のマイケル・クライトンはあの『ジュラシック・パーク』 の作者らしいので。

「タンパク質以外の物質でできた生命体」というクライトンのアイデアは、宇宙生命を地球の生命体の延長線上に想定してしまう私たちの思い込みを揺さぶるものです。

  

筒井康隆『馬は土曜に蒼ざめる』

馬は土曜に蒼ざめる (集英社文庫 79-A)

馬は土曜に蒼ざめる (集英社文庫 79-A)

星新一のショート・ショートに飽き足らなくなってきた中学生の福岡ハカセにとって、衝撃的な〝筒井デビュー〟となった短篇集。 

どんな価値も逆転してしまう奇想天外な仕掛けと、露悪的かつ魅惑的な「大人の俗物」の世界。私はたちまち筒井ワールドにはまり込んでいきます。 

 

村上春樹世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

村上春樹の小説の基本構造は、主人公が何かを探し求めて旅に出る、そしてそれを見つけ出したり持ち帰ったりするという「シーク・アンド・ファインド」だそうです。

壁に囲まれた町の図書館で、「夢読み」をして暮らす「僕」。暗号を取り払う「計算士」として働きながら、自分の意識に仕掛けられた謎を解こうとする「私」。二つの物語が交互に入れ替わりながら、最後には一つの大きな物語に収束します。そこに至る構成も見事です。

 

須賀敦子『地図のない道』 

地図のない道 (新潮文庫)

地図のない道 (新潮文庫)

須賀敦子は、精緻な地図を思わせるたたずまいの作品を残している作家で、福岡ハカセが長く傾倒してきた人。

いつの頃からか、彼女を知った私は、手元に著作を集めて繰り返し読むようになりました。その魅力は、なにより幾何学的な美をもった文体にあります。柔らかな語り口の中に、情景と情念と論理が秩序をもって配置されている。

 

エルヴィン・シュレーディンガー『生命とは何か』 

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)

過去に読んでいますが、紹介文を読んで再度読まないといけないと思いました。 

物理学者であるシュレーディンガーは、この宇宙を支配するエントロピー増大の法則に注目します。宇宙に存在する物質は、ことごとく崩壊への道をたどる。なぜ生命だけが、それをまぬがれて秩序を保ち続けられるのか。シュレーディンガーはそう問いかけ、この問いに答えることこそが生命の謎を解き明かすことだと述べるのです。

 

カズオ・イシグロ遠い山なみの光 

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

 あの衝撃の作品『わたしを離さないで』を書いたカズオ・イシグロの最初の長編。

しかし一方、少年期を過ごした長崎の記憶は、ある鮮やかさをもって心に刻まれていた。20代も後半になった頃、イシグロは日本についての記憶がやがて薄れて消えていくことを思い、この小説を書いたのです。

 

川上未映子『わたくし率 イン歯ー、または世界』 

わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫)

わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫)

川上未映子は「乳と卵」で芥川賞を受賞した作家ですが、それ以前に発表したこちらの作品の方が尖っていて面白いとのこと。 

ここで問われるのは、「わたくし」というものが、いったいどこに存在しているのかという問題です。それは本当に、世間一般に信じられているように脳に局在しているのか。(中略)作家は、そこに超絶仮説を置きます。「わたくし」が局在するのは奥歯である。錯綜する関西弁文体で読者を思うさま幻惑した後、彼女はその奥歯を抜く実験をします。

 

川上弘美『どこから行っても遠い町』 

どこから行っても遠い町 (新潮文庫)

どこから行っても遠い町 (新潮文庫)

都会の片隅に巣食う異空間、地図には決して載らない場所。以前と違い、こういった存在にも魅力を感じるようになった福岡ハカセが、最後の最後に紹介する作品。11の短編からなる連作小説集です。 

形のない記憶。自分の周囲だけにかろうじて紡がれる関係。私たちの人生には、全体を見渡せる鳥瞰図も、計算された設計図もありません。ジグソーパズルのピースを一つひとつ埋めるように、あるいは一つの細胞が前後左右に向かって少しずつ増殖を繰り返し、いつしか生命を形づくっていくように、おそらくは、それが本当の世界なのです。

 

おまけ

福岡伸一『世界は分けてもわからない』 

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

この本を、実は一度読みました。しかし、本書の勘所が理解できないままブックオフに売り渡したようなので、再度入手するつもりです。

 

ではまた…