小島信夫の短編小説『馬』
気になる作家として小島信夫を先日取り上げたところですが、有名な作品の一つである短編小説『馬』を読みました。(新潮文庫『アメリカン・スクール』に収録)
- 作者: 小島信夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1967/06/27
- メディア: 文庫
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この物語、わけわからない奇妙な話です。
けっして難解というわけではなく、ストーリーを追うのは難しくないのですが、読み進めていくうち、どう理解していいのか分からなくなったり、ときどき吹き出したくなるような笑える場面があったり、とにかく変な話です。
あらすじをちょっと長めに要約すると、だいたいこんな感じです。
主人公の僕は35歳を過ぎたサラリーマンで、奥さんと二人暮らし。ある日、奥さんが何の相談もなく、三年前に建てた家と同じ敷地内に新しく家を建て始めます。今の借金を返すのでさえ精一杯なので抵抗するのですが、主人公は奥さんにうまく言いくるめられてしまいます。さらにその新しい家に馬が一頭同居するという恐ろしい事実が判明するものの、なぜ馬が自分の家に住むのか十分な説明をしてもらえません。だんだん主人公の混乱は頂点に達し、かっとして大工の棟梁に襲いかかるのですが、梯子から落ちて意識を失い、自宅近くの精神病院に入れられてしまいます。ある夜、病室の窓から自宅を見ると、奥さんが見知らぬ男を招き入れている現場を目撃します。どうもそれは棟梁のようだったので、次の日奥さんに詰問すると、「馬鹿ねえ、それはあなた自身よ。あなたが来たんじゃない」と言われます。彼はわけわからなくなり、さらに混乱し暴れ出しますが、独房のような部屋に監禁されてしまいます。そのうち、立派な二階建ての家が完成します。
ここまでがだいたい半分です。後半は簡単にいきます。
主人公が病院から新築の家に戻ってくると、冷暖房つきの一番豪華な部屋が馬に与えられていて、自分の部屋は煎餅布団が一組あるだけの貧相な部屋です。奥さんからは、この競走馬のおかげで金が入ってこの家が建てられたんだから、と言いくるめられてしまいます。ある夜、馬が奥さんの部屋をノックしているらしい音や、「奥さん、開けてください」という声を聞いたりして、主人公は“これは妄想なのか”と混乱し、事態はどんどん悪い方向に進みます。やがて奥さんは馬と起居をともにするようになり、……
長くなりましたが、変な話のあらすじは以上です。
先日紹介した村上春樹のエッセイ『若い読者のための短編小説案内』で、安岡章太郎や庄野潤三など戦後の文壇に登場した「第三の新人」(初めて知りました)と呼ばれている作家を中心に6つの短編小説が取り上げられています。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/10
- メディア: 文庫
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小島信夫の『馬』もその一つなので、読んでみました。
村上春樹が読者に提示している論点は二つ。
- 奥さんはどうして無理に家を新築しなければならなかったのか?
- なぜ奥さんは馬を家に引き入れなくてはならなかったのか?
要するに、この作品においては、〈家〉とはなにか?〈馬〉とはなにか? がキーポイントなんですが、村上春樹が見事な切り口で読み解いてくれています。(今日は長くなりましたので、その内容をここで紹介するのは止めておきます)
もちろん、本人も述べているとおり、村上春樹の解釈が必ずしも正しいとは言えませんが、読みの浅い私からすると、再読するにあたっての参考になりました。
ではまた…
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