藤井聡『プラグマティズムの作法』〜閉塞感を打ち破る思考の習慣〜
今年初め頃に読んで非常に参考になった『プラグマティズムの作法』を再読しました。
プラグマティズムの作法 ~閉塞感を打ち破る思考の習慣 (生きる技術! 叢書)
- 作者: 藤井聡
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2012/04/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ところで、「プラグマティズム」とは何でしょうか?
「プラグマティズム」とは、日本語では「実用主義」や「道具主義」等と訳されていますが、19世紀から20世紀初頭にかけてアメリカの哲学界で盛んに議論された思想・哲学です。
「実用主義」と言われても、よく分かりません。著者は、次のようにシンプルに説明しています。
「人間、何をやるにしても、それが一体何の目的や意味があるのかを、見失わないようにしましょう」という考え方、と言うことができます。(p6)
そんなこと当たり前の考え方だと思うでしょうけど、残念ながら人間社会の至るところで、この「当たり前のこと」ができなくなってしまっているのが現状だと、著者は言います。
例えば、
- 王様より飛車をかわいがる将棋の初心者
- 自分の名誉のためにせっせと論文を書く学者
- 儲かるためなら手段を選ばない利益至上の経営者
など、確かに世の中、何の目的でやってるのか分からなくなっているような事例にあふれています。
本書は、景気の低迷、失業率の上昇、格差の増大…… など日本を覆う閉塞感の全ての元凶はプラグマティズムの不足にあるという著者が、そのプラグマティズムの考え方を解説するとともに、どうすれば日本は再生できるのか提言したものです。
(目次)
第一部 プラグマティズムとは何か?
第一章 プラグマティズムで「閉塞感」を打ち破る
第二章 プラグマティズムを正しく使うために
第三章 どういう「言語ゲーム」に従事しているのかに思いを馳せる
第二部 日本には、プラグティズムが足らない
第四章 深刻な「経済学」のプラグマティズム不足
第五章 日本の「ビジネス」には、プラグマティズムが足りない
第六章 日本の「まちづくり」「国づくり」には、プラグマティズムが足りない
第三部 プラグマティズムによる閉塞感の打破
第二部以降は藤井さんの個人的主張が色濃く入っていますので(アベノミクスに関連していて非常に面白いですが)、ここでは第一部に絞って本書のポイントを2つ紹介します。
プラグマティズムを簡単に実行する道具(2つの思考テスト)
仕事や研究の目的や意味を見失わないように自分でチェックするための道具が、「So Whatテスト」と「Grand Motherテスト」という2つの思考テストです。
- So Whatテスト
「So What?」とは「だからどうした?」「で、何なの?」という意味です。この質問に答えられず押し黙ってしまうようなら、何の効果もない仕事や研究を行っていることになります。注意が必要なのは、この「So What?」という質問、かなり「上から目線」の問いかけですので、あくまでも自らに問いかけるための道具です。
- Grand Motherテスト
これは「自分の仕事・研究について、自分のおばあさんでも分かるような説明ができるか」というテストです。「老人」でありかつ「女性」であるGrand Motherは、抽象的概念が苦手である反面、生活感覚に基づくものごとの把握能力を持ち合わせています。どんな偉い仕事や研究であっても、日常生活や常識とつながっておかなければならないという厳しい問いをくぐり抜けないといけません。
プラグマティズムの作法
タイトルにもなっている「プラグマティズムの作法」について、第一部のまとめとして書かれており、その内容は次の2つです。
- 何事に取り組むにしても、その取り組みには一体どういう目的があるのかをいつも見失わないようにする。
- その目的が、お天道様に対して恥ずかしくないものなのかどうかを、常に問い続けるようにする。
この2つを常に心がけながら、日々の暮らしと仕事に従事し、生きていくということがプラグマティズムの精神です。 たったこれだけの至って簡単な作法です。
しかし、冒頭にも書きましたように、残念ながら、著者がたったこれだけのために一冊の本を書かなければならないほど、この作法をはみ出してしまう性向を人間は持っているのです。
ちょっと気を抜いている間に、取り組み始めたときに持っていたはずの「本来の目的」とはかけ離れた別の目的に向かって進み始めます。それが「当たり前」のようになってしまい、それが組織全体を覆うようになって、似て非なる目的に従事するようになってしまいます。
そんな時こそ、たった二か条しかない「プラグマティズムの作法」を使って、「いったい何のためにその仕事に従事しているのか」、そして「その目的はお天道様に対して恥ずかしいものではないか」ーーーそれだけを問えばいいのです。
全体のごく一部しか書き切れませんでしたが、とても刺激的な本です。
ではまた…
参考エントリー
10/27から読書週間だそうです。 - igawa's Blog