igawa's Blog

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開高健『輝ける闇』

とても面白い小説や感動的な小説にはときどき遭遇しますが、作品自体に圧倒されてしまうという小説は滅多にありません。今回読んだ開高健の『輝ける闇』は、まさにそういった作品でした。 

輝ける闇 (新潮文庫)

輝ける闇 (新潮文庫)

ここ数年わたしが読んだ小説では、熊谷達也『邂逅の森』ぐらいです。

この手の力作は、気軽には聴けないベートーヴェン「第九」みたいな重厚感があります。


本書は、著者が取材のため南ベトナム政府軍に従軍した際に激しい戦闘に巻き込まれたものの奇跡的に生還した、という体験を元に書かれた長編です。

作家が、その持てる力のすべてを賭けた、というような作品がある。開高氏にとっては、この『輝ける闇』がそれである。出来上がったものが傑作であるか愚作であるか、そんな問いを作家は許さない。作家の生の全体が予感している一種の絶対的なものが、その作品を書け、と、強制するからである。(秋山駿氏による「解説」より)

という解説文冒頭の3行を読んだだけでも、本書の特別感が分かると思います。

私も「作品自体に圧倒されてしまう」と初めに書きましたが、残念ながらその理由をうまく説明できないというか、この小説の凄みを自分もよく分かっていないのだと思います。

ゲリラ戦のような本物の戦闘を生で体験したからこそ 作者はこんな次元の小説を書くことができたんだ、というような単純な理屈で片付けられるようなものではありません。

読者が一人一人、作品に向き合って感じるしかないのでしょう。

 

死ぬまでに一度は読んでおきたい作品です。

 

ではまた…
 

邂逅の森 (文春文庫)

邂逅の森 (文春文庫)