igawa's Blog

おもに読書と本に関するブログですが、Mac/iPhone、数学、音楽の話題など例外の方が多いかもしれません。

完全に民主的な投票方式は存在しない(高橋昌一郎『理性の限界』)

 

本日は、衆議院議員総選挙でした。どの局も選挙速報ですので、NHK教育「クラシック音楽館」でシューベルトのシンフォニーを聴きながら書いています。

選挙にちなんで面白い話の書いてある本を思い出したので、今回はほとんどその本から引用です。どんな投票方式にするかよって当選者が違うという話です。

55名の有権者が、A〜Eの5名の立候補者に対して、1位〜5位の順位を記入して投票した結果、次のようになったとします。

  1. A>D>E>C>B 18名
  2. B>E>D>C>A 12名
  3. C>B>E>D>A 10名
  4. D>C>E>B>A 9名
  5. E>B>D>C>A 4名
  6. E>C>D>B>A 2名

1. は「A>D>E>C>B」と記入した有権者が18名いたことを示し、以下同様に記入内容と有権者数を表していることとします。
5名の順位を並べる順列は、実際には120通りありますが、ここではこの6通りだったとしておきます。

ここで、この投票結果を見た各候補者の声を聞いてください。(かなり長い引用ですが面白いです)

  • A候補「もちろん、一位票を多く得た候補者が当選するべきです。つまり、18票を得た私が当選すべきです」
  • B候補「55名中で18票では、過半数さえ満たしていません。やはり、一位票を最も多く得た候補者上位2名による決選投票を行っていただきたい。この場合、18票を得たA候補と12票を得た私の決選投票になりますが、18名(1.)が私よりもA候補を選好したのに対して、37名(2.3.4.5.6.)はA候補よりも私を選好しています。したがって、私が当選します」
  • C候補「決選投票と言われるのなら、むしろ一位票の最も少ない立候補者を除外して、再投票を繰り返す勝ち抜き投票を行っていただきたい。この場合、最初の再選挙では、一位票の最も少ない候補が除外され、Eを一位指名した4票が候補へ、2票が私へ移行するため、A=18票、B=16票、C=12票、D=9票となります。同様の方式で、再々選挙では、A=18票、B=16票、C=21票となり、再々々選挙では、A=18票、C=37票となって、私が当選します」
  • D候補「それよりも、有権者が並べてくださった全体順位を重視して、一位票5点、二位票4点、三位票3点、四位票2点、五位票1点と定め、それに票数を乗じた総合得点の最高得点者の当選を主張します。この場合、A=127点、B=156点、C=162点、D=191点、E=189点となり、私が当選します」
  • E候補「いえいえ、全体順位などよりも、立候補者を一対一で比較したとき、有権者がどちらの候補者を選択するかを見極めるべきでしょう。そこで、立候補者全員総当たりで決選投票を行っていただきたい。この場合、A対Eの決選投票では、A=18票、E=37票、B対Eの決選投票では、B=22票、E=33票、C対Eの決選投票では、C=19票、E=36票、D対Eの決選投票では、D=27票、E=28票となり、私が当選します」

つまり、「単記投票方式」ではA候補が当選、「上位二者決戦投票方式」ではB候補が当選、「勝ち抜き決戦投票方式」ではC候補が当選、「順位評点方式」ではD候補が当選、「総当たり投票方式」ではE候補が当選することになります。意図的に構成された例ではありますが、「公正な投票とは何か」について考えさせられます。

実社会においては、多くの選挙では「単記投票方式」、複数委員の選出は「順位評点方式」、オリンピック開催都市は「勝ち抜き決戦投票方式」が用いられるなど、どのようなタイプの当選者を求めるかによって、どの投票方式が適しているのかが経験的に決まっているようです。

 

以上の話を引用した本は、高橋昌一郎さんの『理性の限界』(講談社現代新書)です。 

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)

この本では、完全に民主的な社会的決定方式は存在しないという選択の限界を示す「アロウの不可能性定理」のほか、科学の限界を示す「ハイゼンベルクの不確定性原理」、知識の限界を示す「ゲーデルの不完全性定理」が紹介されています。「囚人のジレンマ」や「相対性原理」など面白い話題が満載で、しかも会話形式で分かりやすいため、非常に読み甲斐のある新書です。

 

高橋昌一郎さんによる講談社現代新書の限界シリーズとしては、『理性の限界』のほか『知性の限界』『感性の限界』もあり、こちらもおすすめです。

 

ではまた… 

 

知性の限界――不可測性・不確実性・不可知性 (講談社現代新書)

知性の限界――不可測性・不確実性・不可知性 (講談社現代新書)

感性の限界――不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)

感性の限界――不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)