igawa's Blog

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神永正博『直感を裏切る数学』

「数学」は役に立たないものの代名詞のように使われることがあります。しかし、ほんのちょっとだけ分かっていなかったばかりに、日常生活で誤った判断をしてしまうことも起こりえます。

「数学は苦手だから」は、「人見知りだから」とか「高所恐怖症だから」とかと同じく、よく使われる枕言葉ですが、もったいないなあと思ってしまいます。

一般知識として知っておいて損をしない(かつまた面白い)数学のトピックが、実はたくさんありますので、今回はそういった話題が満載の『直感を裏切る数学』(講談社ブルーバックス)の紹介です。 

ここ数年、(ブームとまでは言えませんが)数式を使わない一般向けの数学読み物が多数出版されていますので、たまには日常生活に現れる面白い算数に触れてみてはいかがでしょうか。

本書は、そういった本の中でも、「えっ!なんで?」というような直感を裏切られる定番の数学ネタが詰まっていて、とてもお得な一冊です。

 

本書で取り上げられている題材を一つ紹介します。

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所得の統計データを調べてみると、「年収1000万円以上、年収500万円〜1000万円、年収500万円以下のどの階層でも、ここ数年で平均所得が上がっている」ということが分かったとします。

このことから、「社会全体の所得が上がり、景気は回復していると言える。」と結論づけてあっても、疑問に感じないと思いませんか?

景気の回復はさておき、全体の所得は間違いなく上がっている気がしますが、実は必ずしもそうではありません。むしろ、不景気が深刻化する局面では起こりうる現象です。

一体どういうことでしょうか?

不景気になって全員の所得が減ったとします。そうすると、高所得者の中で比較的低所得だった人は、下の階層に脱落することになります。(例えば、年収1001万円だった人は500万円〜1000万円の階層へ、501万円だった人は500万円以下の階層へ脱落)

このとき各階層の平均所得はどうなるかというと、下の階層へ脱落した人の年収がその階層の中では比較的高所得になるので下の階層の平均所得を押し上げることになります。このため、全体の平均値は下がっているのに、各階層の平均所得は増加してしまうという一見奇妙な(でも数学的には当たり前の)結果が生まれます。

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これは、「シンプソンのパラドックス」といって、「集団全体の性質と、集団を分けたときの性質が異なる」現象です。

この例でも分かるように、正しい統計データが書かれているにもかかわらず、読者が勝手に誤った解釈をしてしまうことがあり、統計には騙されてしまいます。

特に、これが意図的になされる場合もあるので、注意が必要です。

 

他にも面白い話題がたくさんありますので、今後、本書からいくつか紹介していきたいと思います。

 

ではまた…