igawa's Blog

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O.J.シンプソン裁判 に学ぶ確率・統計

アメリカ人なら知っている裁判に、1994年にロサンゼルスで起こったO.J.シンプソン事件があります。

有名なアメフト選手だったO.J.シンプソンの妻が、その友人(男性)とともに自宅の前で死んでいるのが発見され、シンプソンに疑いがかかりました。シンプソンは現役を引退した後、俳優やコメンテーターとしても活躍していた人気者だったので、大きな話題になったそうです。

 

検察側は、家庭内暴力が殺人につながったことを立証するため、シンプソンが長年にわたって妻に暴力を振るってきた証拠を提出しました。

ところが、弁護団は「妻を虐待していた夫の中で妻を殺してしまうのは2500人に1人しかいない」という FBI の犯罪統計を利用し、家庭内暴力の証拠は無視すべきだと主張しました。

検察側は これにうまく反論できず、シンプソンが暴力を振るっていた証拠で陪審員の心証を得ることができませんでした。

確率を使って言うと、家庭内暴力をしていた夫が妻を殺す確率は2500分の1しかなく、これは小さすぎるから証拠として意味がないというのが弁護側の主張です。

 

しかし実は、この主張は詭弁です。

というのは、弁護人は「妻がすでに死んでいる」という重要な情報が無視されているからです。この情報があれば、確率の計算は全く変わってしまうのです。

アメリカでは、既婚女性が夫以外の人に殺される確率は 20,000人に 1人だそうです。例えば、家庭内暴力を受けている妻が 100,000人いるとすると、その中の 5人は家庭内暴力に関係なく殺されることになります。一方、家庭内暴力を受けている妻が夫に殺される確率は 1/2500 なので、100,000人の中の 40人が夫に殺されることになります。殺された妻は全部で 40+5=45人で、その中で夫に殺されるのは 40人なので、家庭内暴力を受けていた妻が殺されていたときに、夫が犯人である確率は、40/45≒0.9 ということになります。

 

つまり、シンプソンが家庭内暴力を振るっていたことが立証できれば、彼が妻を殺していた確率は約90%にも達します。弁護側の主張に対して、数字できちんと反論することができます。

 

以上は、物理学者の大栗博司先生が娘さんに向けて書いた数学の本『数学の言葉で世界を見たら』(第1話)からの紹介でした。 

数学の言葉で世界を見たら 父から娘に贈る数学

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実際の裁判は、人種問題や証拠捏造疑惑など様々な要因がからんでおり、刑事裁判では殺人を否定する無罪判決となり民事裁判では殺人を認定する判決が下るという、よく分からない結果となっています。(O・J・シンプソン事件 - Wikipedia

 

ではまた…