沼野充義編著『世界は文学でできている』
最近、世界文学に凝っています。小説を読んでいるのではなく、まだ世界文学について語った本を読んでいるだけです。
今回、沼野充義編著『世界は文学でできている』を読みました。
本書は、文芸評論家で東大文学部教授の沼野充義さんがホスト役になって5人のゲストを順次迎え、文学について様々な角度から議論されたものがまとめられたものです。
沼野さんの奥深い問いに対して、ゲストの方の尖った個性や読書遍歴から出てくる発言は非常に面白く、文学に関する未知の世界に引きずり込まれました。
興味深い話が盛りだくさんだったのですが、なかでもドストエフスキー(特に、カラマーゾフの兄弟)と村上春樹については、複数のゲストで登場した話題でもあり、文学界では避けては通れなさそうなので、少し長いですが、自分用メモを兼ねて発言内容を引用しておきます。
ドストエフスキー
(平野)ドストエフスキーを面白い、すごいなと思うのは、彼の作品には面白がられるプロットの層みたいなものがすごくきれいにできているからです。表面のミステリー的なところだけを面白がって読むこともできるし、もうちょっと深いところで「人間が生きるとは何か、死ぬとは何ぞや」という問題を考える小説としても読める。あるいはもっとマニアックに「当時のロシアには西洋派とスラブ派がいて」ということを知りたい人だっているし、それがきれいに層をなしていて、いろいろな関心を持っている多様な読者に、マルチに対応していくところがあると思います。(p139)
(沼野)ドストエフスキーの小説には、「殺人」「テロリズム」「幼児虐待」といった、現代的で陰惨な社会的問題が強烈な形で出てくるということです。こういう問題を投げかけた文学が他にないわけではありませんが、ドストエフスキーのすごさは、通俗的で時局的な事件、それこそ新聞の三面記事になるような犯罪を取り上げながら、その生々しさを描き出すと同時に、そこにその場限りではない深みというか、表面からは見えない現象の本質的な中身といいますか、それを常に導きだしてくるところにある。
いずれにしても、ドストエフスキーが百数十年前に小説で描き出した陰惨で深刻な問題は、実はいまの日本社会が抱えている問題と全面的に共通していると言っても過言ではありません。「殺人」「テロリズム」「幼児虐待」と言いましたが、どれも現代社会を蝕む深刻な問題です。しかもドストエフスキーはそういった事態の根源に、「神なき時代にはすべてが許されるのか」という根本的な疑問を置いた。いよいよ「神なき」時代に突入しつつある現代人にとって、だからこそ、彼の問いかけは重く響く。ドストエフスキー的な問いかけは、現代の世界のいたるところに潜んでいます。(p295-296)
村上春樹
(沼野)ところが最近の作品、たとえば『海辺のカフカ』では『源氏物語』が出てくるし、『1Q84』では『平家物語』の原文がかなり長々と引用されている。
これは何なのか。つまり、村上春樹も結局は日本的なものに回帰しつつある、と言えるんでしょうか。日本の作家が年を取って日本に回帰する。それはいいとか悪いとかいった問題ではなく、人間として生理的に何か避けがたい現象なのかもしれません。(p194)
(沼野)サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』という作品は、かなり昔に野崎孝さんが訳したものがあって長年数えきれないほどの読者に読まれてきました。名訳としての地位を既に確立していると言ってもいいでしょう。ところがそれを村上春樹が新たに訳して、タイトルもカタカナで『キャッチャー・イン・ザ・ライ』にした。
この二つの翻訳を比べると、あくまで日本語での話ですが、野崎孝のほうが主人公が反抗的な感じで、何か不条理なことがあると「大人が悪い」と批判したり抗議したりするような勢いを感じさせる文体になっている。それに対して村上春樹の訳文で読む主人公像は、問題を自分の内に抱え込むようなタイプ、つまりアグレッシブに外にぶつかっていくのではなく、内向的に考えるタイプに見えます。(p270)
読みたくなった本
紹介されていた本で読みたくなったものは多数ありますが、きりがないので厳選して5つにしました。
カフカ『変身』
- 作者: フランツ・カフカ,Franz Kafka,高橋義孝
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1952/07/30
- メディア: 文庫
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李良枝『由熙』
- 作者: フョードル・ミハイロヴィチドストエフスキー,亀山郁夫
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/10/09
- メディア: 文庫
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吉本ばなな『キッチン』
オースター『偶然の音楽』
水泳の教本ばかり読んで泳ぎに行こうとしないバカなやつにならないよう、そろそろ実践モードに入ります。
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