igawa's Blog

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出口治明『仕事に効く 教養としての「世界史」』

ライフネット生命保険代表取締役会長兼CEOである出口治明さんが書かれた『仕事に効く 教養としての「世界史」』を読みました。 

仕事に効く 教養としての「世界史」

仕事に効く 教養としての「世界史」

 

 

出口さんは、無類の読書家で旅行好きとしても知られているようです。

アマゾンレビューでは、「歴史好きの素人が趣味で書いたエッセーにすぎない」というような辛口の評価もありますが、それでも世界史という非常に広範な分野について、これだけの内容が書けるとはやはり驚きです。

 

著者は、日本史と世界史があるのではなく、あくまでも歴史というものは一つしかないと言います。学校教科として分かれているのは便宜上やむを得ないと思いますが、日本史は世界史の中の一部として見ないと本質を見誤りますよ、と言いたいのです。

世界史の中で日本を見る、そのことは関係する他国のことも同時に見ることになります。国と国との関係から生じてくるダイナミズムを通して、日本を見ることになるので、歴史がより具体的にわかってくるし、相手の国の事情もわかってくると思うのです。すなわち、極論すれば、世界史から独立した日本史はあるのかと思うのです。(第1章より引用)

 

第1章「世界史から日本史だけを切り出せるだろうか」での例を紹介します。

奈良時代の女帝たちは「男性の中継ぎ」だったのか?

持統天皇(女帝)の息子で若くして病死した草壁皇子とか、その子どもである文武天皇とかがそろって病弱だったので、やむを得ず中継ぎで女性(元明天皇孝謙天皇など)が天皇になったのだと中学では習うそうです。(私は覚えてませんが)
著者は、ちょっと違うのではないかといいます。その頃世界(当時は中国と朝鮮半島のこと)に目を向ければ、唐を支配していたのは女帝の武則天新羅でも二代続けて女王が生まれていました。持統天皇は、中国や朝鮮半島で女性が君臨しているので、自分が政治を取り仕切っていいはずだと考え、他の女帝もその後に続いたのではないかという説です。

もし日本史だけを勉強していたら、武則天のことや新羅の二人の女王のことは学ばない。日本史だけを見て、「この時代は女帝が多いな、男の子が病弱だったのかな」ということになって、そこで思考が止まります。けれども、そうではなくて、奈良時代に女性があのように頑張れたのは、周辺世界にロールモデルがあったからだと僕は思うのです。

ペリーが日本にやって来た本当の目的は何だったのか?

捕鯨船の石炭や水の補給基地として開国を求めた、と中学校では習うそうです。(私は覚えてませんが)
著者は、ちょっと違うのではないかといいます。当時アメリカは対中貿易(絹や陶磁器など)をめぐってイギリスとライバルの関係でした。大西洋〜インド洋ルートだと、どんなに船の効率を上げても絶対にイギリスに勝てないので、太平洋ルートの中経地点としたかった、クジラはどうでもよかったという説です。

要するに、対中国貿易で大西洋航路を使っている限りアメリカは永遠に大英帝国には勝てない。(中略)太平洋航路を開いて中国と直接交易をするしか大英帝国に勝つ方法はない。日本を開国させることは太平洋航路の有力な中継地点を獲得することになる。(中略)これも日本側の視点だけで見ていたら、徳川幕府に残っている文献や、江戸末期の文献だけで判断してしまうから本当の姿は見えない。アメリカと大英帝国の競争という視点を視野に入れて初めて本当の姿が見えてくるわけです。 

おわりに 

私は、高校時代に地理を選択したため、日本史・世界史を勉強しませんでした。

本書は、いろんな書評をみると評判がいいので、この本を読めば世界史の流れがわかるかなと甘い期待をしていました。わかりやすく書かれているとはいえ、時系列ではなくトピックの羅列なので、世界史の全体像が分かるはずもありませんでした。しかし、世界史というものはどのように捉えるべきかということは分かった気がします。

世界史の基礎知識がないので、出てくる用語に親近感がなく、残念ながら読んでいて頭にすんなり入ってきませんでした。わたし的にはいまいちな本に感じましたので、教科書的な歴史の本を読んでから、再度読んでみたいと思います。

世界史の概略がわかっている多くの方は、著者の独創的な新説が非常に面白く読めるのではないかと思います。