igawa's Blog

おもに読書と本に関するブログですが、Mac/iPhone、数学、音楽の話題など例外の方が多いかもしれません。

池谷裕二「単純な脳、複雑な『私』」

池谷裕二さんの「単純な脳、複雑な『私』」(朝日出版社)を読みました。 

単純な脳、複雑な「私」

単純な脳、複雑な「私」

 

池谷さんの本を読んだのは、「記憶力を強くする」、「進化しすぎた脳」に続いて3冊目。

本書は、池谷さんの母校(藤枝東高校)で後輩の在校生に対して講演された4つの講義を収録したものです。脳関係の本は多数出版されていますが、池谷さんの本は最新脳科学の知見を一般向けに分かりやすく書かれていて、めちゃくちゃ面白いです。

その面白さを的確に伝えることは難しいのですが、盛りだくさんある話題のうち、個人的にヒットした部分を紹介します。

 

ありもしない色が見える

単純な脳、複雑な「私」 動画特設サイトにある、この画像をご覧ください。信じられないことが起こります。

ピンク色の斑点が円状に整列している。1ヵ所が消えていて、それがグルグルと回転している。しかし、中央の+印を凝視すると、ピンク色の斑点の上を緑色の斑点が回転しだす。さらに+印を見続けると、ピンク色の斑点が目の前から消えてしまって、緑色の斑点だけが回り続ける。とても不思議な錯視。 

ありもしない「緑色」が見えて、実際にある「ピンク色」が消えましたでしょうか? この結果を踏まえると、脳の活動こそが事実、つまり感覚世界のすべてであって、実際の世界、つまり「真実」については、脳は知り得ないということだそうです。ちょっと哲学的で難しいですが、著者が言いたいことは何となく伝わると思います。

 

アリはどうやって効率的なルートの行列をつくるか

アリの行列は、どのような仕組みで形成されているのでしょうか? 実は、たった2つのルールだけであの整然とした行列ができているのだそうです。

  • エサを持つとフェロモンを出す
  • フェロモンは揮発性かつ誘引性である

これだけでアリの統率された集団的行動が現れます。

簡単に言うと、エサを持ったアリが出す誘引性のフェロモンに引き寄せられて、他のアリもフェロモンの道を歩くようにます。蒸発しやすいこと(揮発性)も重要で、エサがあるのが最新情報(今ここ)だと分かるからです。

さらにスゴいのは、エサから巣までの道のりが効率悪い場合(下図のA)は、効率の良いルート(B)に代わる仕組みを備えているのです。

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どういう仕組みかと言うと、アリの進化の過程で、優等生ではないひねくれ者のアリを排除しなかったことが関係しています。 言うことを聞かないヤツの存在は貴重なんです。

集団の規律に従わない少数のアリがたまたま近道(B)を発見する可能性があります。このアリもエサを運んでいたらフェロモンを出します。このとき、2つのフェロモンルートができますが、道のりが長いとフェロモンが薄まっていくので、結局効率のいい(フェロモンが濃い)ルートを選ぶアリが増えていき、ルートが変更されるのだそうです。スゴいですね、アリも馬鹿にはできません。

世のなか、優等生だけではダメで、多様性が大事だと言えそうです。

 

このアリの話は、脳とどういう関係があるかと言うと、脳には「ゆらぎ」があって、そのメリットの一つが「効率よく正解に近づく」ということの例になっています。(ひねくれ者のアリが一種の「ゆらぎ」です)

 

最後に

本書の面白さを上手に伝えきれませんが、高校生向けの講演がベースになっていますので、科学ものを普段読まない方でも十分に楽しめる本だと思います。

 

昨年、ブルーバックス版も出ているようです。 

単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

 

池谷さんに出会った一冊はこれ。 

記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)

記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)

 

これもオススメ。 

進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)

進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)