岡嶋二人「クラインの壺」
岡嶋二人の「クラインの壺」(新潮文庫)を読みました。約20年ぶりの再読です。
「メビウスの輪」はご存知でしょうか?
帯状の長方形の片方の端を180°ひねり、他方の端に貼り合わせた形状の図形(曲面)のことをいいます(Wikipediaより) 。ネット上には使える写真がなかったので、自作しました。
この曲面には表と裏の区別がありません。もともと二次元の平面だった細長い長方形(表が紫色、裏が白色)を、三次元空間でひねって貼り合わせると、表と裏がなくなります。
今度は、三次元の物体である細長いホースを考えます。ホースの端と端を普通にくっつけると浮き輪の形になりますが、メビウスの輪と同様に、四次元空間(!)でひねって(想像力を働かせてくださいね)貼り合わせたものを「クラインの壺」といいます。想像しにくいですよね?三次元空間では現実的に不可能な立体です。イメージ的には、下図のようなものになります。
「メビウスの輪」が表と裏の区別のない紙(平面)だったのと同様、「クラインの壺」は内側と外側の区別のない浮き輪です。浮き輪の内側の壁を這っていたアリがいつの間にか外側を這っているという感じです。
本書は、そんな数学(位相幾何学)用語をタイトルに冠したミステリー小説です。バーチャルリアリティがテーマになっていて、推理小説ではなくSFという方が近いと思います。
ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は……。現実が歪み虚構が交錯する恐怖! (Amazonの「内容紹介」より)
久しぶりに再読して、 1989年(25年前!)に書かれたとは思えないバーチャルリアリティの話を堪能しました。冒頭の「メビウスの輪」と「クラインの壺」の説明で力尽きましたので、これくらいにしておきます。とにかく面白いです。というか、怖いです。
ちなみに、岡嶋二人さんというのは、徳山諄一さんと井上夢人さんのコンビ(合作ペンネーム)でしたが、本作を境にコンビは解消されています。講談社文庫版もあるようですね。
岡嶋二人さんには、他にも名作がありますので、紹介しておきます。